森友学園が安倍政権の“愛国教育”との訣別を宣言 安倍内閣は“教育勅語の復権”を閣議決定

 森友学園問題の強引な幕引きを狙う安倍政権は、応援団のネット右翼、“機関紙”こと産経新聞らとタッグを組み、民進党・辻元清美議員に対する卑劣なデマキャンペーンを展開したり、些末な揚げ足取りを根拠に偽証罪の告発をぶち上げ籠池氏を恫喝したり、とあらゆる謀略と圧力を仕掛けている。森友問題の闇は何一つ解明されていないにもかかわらず、なりふり構わぬ政権の横暴には閉口するしかない。

 国有地取引および小学校設置認可への昭恵夫人や政治家の関与について一層の追及が必要なのはもちろんのこと、もうひとつ忘れてはならないのが、森友学園の“極右愛国カルト教育”を、安倍晋三首相夫妻、稲田朋美防衛相、鴻池祥肇議員をはじめ自民党と維新の多くの政治家たちが讃美し応援していたという事実だ。
 
 その森友学園の教育方針について、3月30日森友学園が運営する塚本幼稚園のHPに“声明文”が公表された。名義は「学校法人森友学園 理事長 籠池町浪」。町浪氏は、今回の問題を受けて退任した籠池泰典前理事長の長女であり塚本幼稚園の教頭も務めてきた人物だ。

 声明文は瑞穂の國記念小學院の国有地売却問題について、世間や園児及び保護者らに対し〈ご迷惑をおかけしていることを深くお詫び申し上げ〉たうえで、国有地問題だけでなく、今後の塚本幼稚園の運営方針の「改善」を宣言する内容となっている。

〈(前略)マスコミ等の報道やご批判にありますように、ともすると、「愛国教育」、「国粋主義」と捉えられ、具体的には「教育勅語を暗唱させる幼稚園」、「自衛隊行事に参加する幼稚園」とのご指摘を受け、社会問題化するに至りました。これらは全て、教育基本法が平成18年(2006)年に改正された際に新たに設定された「我が国と郷土を愛する態度を養う」との教育目標を、幼児教育の現場で生かそうとした前理事長なりの努力と工夫の結果であると理解しております。〉

 つまり、籠池前理事長の方針であった「教育勅語の暗唱」に象徴される極右教育は、第一次安倍政権が「我が国と郷土を愛する」「公共の精神を尊び」などを盛り込んだ改正教育基本法(以下、06年教基法)を実践したものであると明確にしているのだ。

 続けて声明文では、今年度からの新体制において〈平成18(2006)年改正の教育基本法に基づく前理事長の教育理念と方針及び指導法を批判的に総括〉し、〈教育基本法が昭和32(1947)年に制定された際に示された「われらは、個人の尊重を重んじ、真理と平和を希求する人間の育成を期するとともに、普遍的にしてしかも個性豊かな文化の創造をめざす教育を徹底普及しなければならない。」との指針を常に念頭におきつつ、内容・カリキュラムを柔軟に見直してまいります〉と宣言。同時に、同園ではびこっていたヘイトスピーチの問題についても、〈全職員と共に精査し、改善すべき点があれば真摯に反省するとともに、今後、問題の発生を根絶する事をお約束いたします〉と、是正に向けた姿勢を強く打ち出している。

 ようするに森友学園は、昭恵夫人が「こちらの教育方針は、主人も大変素晴らしいと思っています」と賞賛した極右教育が、そもそも安倍政権の教育政策を強く反映したものであったことを明確にしたうえで、その内容を自ら否定し、改善するというのだ。森友学園から安倍政権に対する完全な“決別宣言”といってもいいだろう。

 もちろん、これまでの籠池前理事長の言動や、いま森友学園が置かれた状況を鑑みると、今回の町浪新理事長名義での声明についても、現時点では一定の留保が必要ではある。しかし、声明文が実に正論を述べているのもまた事実だ。とりわけ繰り返すが、塚本幼稚園の極右洗脳教育が第一次安倍政権による06年教基法を実現したものであったとの自己認識は、いまの日本社会を見つめ直す点で極めて重要である。

 振り返れば、政権発足とともに「教育再生会議」を設置した第一安倍政権は、「教育の憲法」とよばれる教基法の約60年ぶりの全面改正に着手。数多の批判を受けながらも強行成立にこぎつけた。その中身としては、前述のように「我が国と郷土を愛する」と新たに盛り込むことで子どもたちに復古的なナショナリズムを強要した、いわゆる「愛国心条項」がよく知られている。だが、06年教基法はそれ以外にも、安倍首相がいかに人権を軽視し、平和主義を否定しているかを強くにじませるものだった。

 たとえば前文だけでも、47年教基法で〈真理と平和を希求する人間の育成を期するとともに、普遍的にしてしかも個性ゆたかな文化の創造性を目指す教育を徹底普及しなければならない〉と宣言された箇所が、06年教基法では〈真理と正義を希求し、公共の精神を尊び、豊かな人間性と想像性を備えた人間の育成を期するとともに、伝統を継承し、新しい文化の創造を目指す教育を推進する〉に変更されている。

 比較すれば瞭然だが、06年教基法は、従来の人間が希求する対象としての「平和」を削除して「正義」なる文言に置き換えている。これは、あきらかに戦争という「平和」に反する行為を「正義」の名の下に正当化するやり方だ。さらには「個性」が消された一方、「公共の精神を尊び」が挿入されているが、これはひとりひとりの権利を意味する「個」よりも、国家というシステムに置き換えられる「公共」を優先せよとの号令を意味している。個人の基本的人権を制限し公益を優先させるという自民党改憲草案を先取りしたような内容だ。

 つまり、06年教基法は、安倍首相が国家に忠誠を誓う人間像を求め、それを教育の名のもとに強制したいという願望を直裁的に表したものだった。さしずめ、「一旦緩急アレハ義勇公ニ奉シ以テ天壤無窮ノ皇運ヲ扶翼スヘシ」(国家のために勇気をもって身命を捧げ、永遠に続く天皇の勢威を支えよ)とする教育勅語の現代版である。実際、06年教基法は、第一次安倍政権の数少ない「成果」として極右陣営から絶賛された。たとえば当時の日本会議会長・三好達氏は「正論」(産経新聞社)07年11月号のインタビューで、「(教基法改正は)日本会議の十年の運動の中で最大の成果」と最大級に評価したうえで、「教基法改正は改憲の世論形成のためだ」と明言していた。

 その意味でも、この度森友学園の町浪新理事長が示した「教育勅語の暗唱」等の異常な極右洗脳教育が安倍政権の教育方針を実直に反映したものであるとの認識は、たしかにその通りだとしか言いようがない。声明文で“安倍政権の教育方針”との決別を宣言した森友学園が、今後、具体的にどのような活動を行っていくのかはまだ定かではないが、本サイトが「安倍政権の下で日本が“森友学園化”する」という危険性を繰り返し指摘してきたように、今回の一件で浮き彫りになった極右教育の問題は、やはり、全体の氷山の一角にすぎないのである。

 事実、安倍政権は3月31日、教育勅語を学校教育で扱うことに対し、「憲法や教育基本法に反しないような形で教材として用いることまでは否定されない」との答弁書を閣議決定した。これまでにも下村博文元文科相や稲田朋美防衛相、そして安倍首相自身が教育勅語を肯定する発言をしてきたが、今後一層、安倍政権による極右洗脳教育が加速していくということだろう。

 先日本サイトでも取り上げた道徳教科書検定で「パン屋」が「和菓子屋」に変更させられた件もそうだが、こうした思想信条の侵犯・洗脳問題は、わたしたちが「これはおかしい」と気がついた頃には、すでに末期段階に突入しているのである。安倍政権が推し進める“戦前のメンタリティ”の醸成に抵抗するためには、いま、この瞬間に声を大にしなければならない。