「国難突破解散」自分の言いたいことだけ言う

 25日の記者会見で「国難突破解散」なる身勝手極まりない宣言をした安倍首相。その内容のウソと詭弁は本サイトで詳しく検証したが、その夜、安倍首相はNHK『ニュースウオッチ9』、テレビ朝日『報道ステーション』、TBS『NEWS23』をはしご生出演。国民の疑問にはまったく答えず、大義なき解散を正当化、保身の弁に終始した。

 だいたい、この男がテレビで何を語るかは最初から予想できたことだ。NHKでもテレ朝でも、当然、キャスターらから「なぜこのタイミングで解散なのか」「森友・加計学園疑惑隠しではないのか」という質問が飛んだが、安倍首相は「国民に信を問うことは過半数を失うリスクを背負うこと」「国会で何度も説明してきた。私も妻もまったく関与していない」などと同じ話を繰り返し、いつもの強弁で煙に巻いたのだ。

 北朝鮮への対応についても、たとえば『報ステ』では小川彩佳アナウンサーから「先日の国連での総理の演説を聞いていましても、対話ではなく圧力ですとか、トランプ大統領と歩調も口調もひとつにするような言葉が相次ぎました。逆に危機を煽ってしまうのではないか、危機を招いてしまうのではないかという不安を覚える方も多いと思いますが」と突っ込まれた。だが、安倍首相は、憮然とした表情で「あの、危機をつくっているのは北朝鮮です。ミサイルを発射しているのも核実験をしているのも国際社会の要請に反しているのもですね、北朝鮮です」と被せ、そのあとも長々と演説し始める始末だった。

 国民の批判にまったく耳を傾けず、自分の言いたいことだけ言う。そんな安倍首相を見て「またか」と思った視聴者も多かっただろう。しかし、そんななかで、健闘したのが『NEWS23』だった。

 周知の通り、安倍首相は森友・加計問題について「国会で何度も丁寧に説明してきた」と各番組で強弁していたが、国会閉会後にも新たな証拠がいくつも出てきている。なかでも決定的なのが、籠池泰典理事長(当時)側と財務省側との交渉を記録した音声データだろう。官邸も財務省もこの音声データについて、いまだまともに説明していない。

 そして、『23』では、スタジオに登場した安倍首相に、この音声データを聞かせたのだ。そこには、疑惑の8億円値引き疑惑について、籠池理事長が「ぐーんと下げていかなあかんよ」と求めたのに対し、財務省担当者が「理事長のおっしゃるゼロに近い金額まで、私ができるだけ努力する作業をいまやってます」と応答する具体的な価格交渉が収められていた。これは、財務省の佐川宣寿理財局長(当時)の国会での「価格につきましてこちらから提示したこともございませんし、先方からいくらで買いたいといった希望があったこともございません」という答弁とも完全に矛盾する決定的証拠だ。

 ところが、この決定的証拠を突きつけられた安倍首相は、こう繰り返して無茶苦茶な逃げ切りをはかった。

「籠池理事長はですね、まさに詐欺で逮捕され、起訴されました」
「逮捕され、詐欺でですね、そして、起訴された人物」
「まさに籠池氏は逮捕され、奥さんもですね逮捕され、詐欺罪で、起訴されました」

■森友問題について何を訊かれても、「籠池氏は詐欺で逮捕された」の一点張り

 つまり、安倍首相は“籠池前理事長らが逮捕・起訴されたのだから森友問題は決着がついた”というふうにまくしたてたのである。だが、ちょっと待ってほしい。籠池前理事長が逮捕、起訴されたのは補助金の不正受給疑惑であり、国有地が不可解にタダ同然で払い下げられたという森友問題の疑惑の本質とはまったく無関係だ。にもかかわらず、安倍首相は生出演中なんども「詐欺で逮捕された」と繰り返し、“詐欺師”“悪人”だと印象付けた。籠前理事長側にすべての罪をかぶせようとしたのである。

 一国の首相が公共の電波を使ってこんなことをして、許されるのか。しかも安倍首相は、籠池理事長に対しては散々「詐欺で逮捕された人物」と繰り返しておきながら、森友問題のカウンターパートで、大阪地検特捜部が背任容疑で捜査をしている近畿財務局側、そして虚偽答弁が決定的になった佐川前理財局長については、一切言及しなかった。

 星浩キャスターは、佐川前理財局長が虚偽答弁のあと国税庁長官に栄転したが、就任後数カ月を経た現在にいたるまで一度も記者会見を行っていないことを指摘したうえで、安倍首相にこう問いかけた。

「佐川さんが、国会答弁のあと今年の7月に国税庁長官に栄転されてですね、その後3カ月が経とうとしていますが、一回も記者会見がないんですね。通常、国税庁長官は、就任直後に記者会見をして、こういう方針で徴税にあたりますというのを明確にお話しされるんですけど。
 私はそれはやはり国税庁長官としての職務怠慢ではないかと思うんですね。これもぜひ、森友問題を含めて、佐川国税庁長官は安倍首相の部下ですから、やはり『記者会見ぐらいやれ』という指導をしていただけないでしょうか」

 星キャスターのこの問いかけを凍りついた顔で聞いていた安倍首相は、「記者会見については、いわば本人、国税庁、財務省で適切に判断するんだろうと思います」と述べるにとどめ、続けて「この(答弁と交渉記録音声との)食い違い等についてはですね、まさに籠池氏は逮捕され、奥さんもですね逮捕され、詐欺罪で、起訴されました」と、またもや“籠池=詐欺師”の構図を刷り込ませるように話をすり替えたのである。

 さらに駒田健吾アナから「昭恵夫人の会見については行う予定はないのでしょうか」と聞かれても、やはり「私自身、国会でも何回にもわたって答弁していますから、その必要はない」と強弁し、「よく『籠池さんは国会で証言したじゃないか』(と言われる)。しかし、籠池さん自体は、詐欺罪で、刑事被告人になったわけでありますし、いまの段階でですね、私たちはしっかりと、少なくとも私は何回も説明をさしていただいていると」などと繰り返した。

 もう一度言うが、籠池前理事長の逮捕は補助金の不正受給の話であり、疑惑の本丸である国有地売却問題とは別の問題である。

■加計理事長の会見を求められたのに、「加戸さんの証言を報じろ」

『23』では加計問題についても食い下がった。対する安倍首相は明らかに苛立ったように質問をさえぎって、「国家戦略特区ワーキンググループの八田(達夫)さんや原(英史)さんは『プロセスに一点の曇りもない』と証言した」「加戸守行前愛媛県知事も『行政が歪められたのではなく歪められた行政が正された』と明確に説明している」、さらには「そういう証言も報じていただかないと」などと例のネトウヨが得意とする“報道しない自由”の話にすり替えた。

 しかも加計孝太郎理事長に会見をするよう働きかけないのかと問われたのに対しても、こう答えた。

「加計さんの会見が必要というなら、加戸さんが誠実に証言しているのだから、報じていただきたい」

 加計氏の説明を訊きたいと言っているのに、なぜ加戸氏の証言の話になるのか。安倍首相のネトウヨ脳は重々承知だが、一国の総理大臣が公共の電波でネトウヨと同じことをがなりたてるのだから、頭がクラクラしてくる。

 本サイトでは何度も指摘してきたことだが、念のため言っておこう。加計問題の本質は、加計学園の獣医学部新設が認められたプロセスに不正や恣意性があったかどうかを検証することにある。そして、八田氏や原氏はプロセスの透明性をアピールするが、実際には、2016年6月、国家戦略特区WGが愛媛県と今治市からヒアリングをおこなった際、加計学園の幹部3名が同席していたにもかかわらず、政府が公開し、「透明性」の根拠とした議事要旨には、そのことが伏せられていた。さらに、発言内容を一部削除することで、発言主旨を真逆に書き換えるという議事録の改竄まで行われていたことも明らかになっている。

 また、与党参考人として答弁した加戸氏も、本人が「(安倍首相の)応援団の一員」と自認していたように、前愛媛県知事として加計学園側にくっついて、政府に陳情していたにすぎない。しかも、これまで10回以上も認められてこなかった加計学園の今治獣医学部新設がトントン拍子に進んだのは第二次安倍政権以降のことだが、加戸氏が知事を務めたのは2010年まで。ようは、安倍政権での特区指定の行政プロセスに、加戸氏はまったくタッチする機会もなければ、その内実を知る立場でもない。

 しかも、加戸氏は閉会中審査で口を滑らし、「有識者会議の判断と、内閣府のあるいは虎の威を借りるような狐の発言を用いてでも強行突破していただいたことは、私は大変よろこんで今日にいたっています」と、狐=内閣府が虎=安倍首相の威を借りて獣医学部設置を突破したといような、不正をほのめかす発言までしている。ようするに、安倍首相が『23』で主張した“八田氏、原氏、加戸氏の発言がすべてを物語っている”との話はとんだデタラメであり、国民を欺く詐術にすぎないのだ。まったくどちらが「詐欺師」なのか。

■安倍首相の「深く反省」はやっぱり嘘!詭弁と開き直りのオンパレード

 これだけでも安倍首相の「丁寧に説明する」「深く反省」などの言葉がただのポーズだったことは明らかだが、この男がまったく反省していないことが明らかになったのはこの場面だろう。「李下に冠を正さず」を繰り返す安倍首相に対し、星氏がこう問いかけた。

「李下に冠を正さずと言うのであれば、政府に許認可を求める立場のトップである加計孝太郎理事長と、安倍総理は許認可をする政府のトップですよ。それが第二次安倍政権になって15回も会食やゴルフをするのは適切なのか。それこそ、李下に冠を正さずではないか。そこに反省はないですか」

 すると、安倍首相は例の勝ち誇ったような薄ら笑いを浮かべてながら、こう言い放ったのだ。

「他方ですね、私、総理大臣ですから。たとえば、経済界の人たちは、すべてなんらかのかたちで許認可に関わりがあります。それが全部ダメだと言ったらですね、私は誰とも付き合えなくなる、わけでありまして」

 反省のかけらもないとんでもない開き直りだが、この安倍首相の詭弁に星氏はすかさず切り返した。

「経団連の会長とかですね、同友会の代表幹事とか、これは役職、ひとつの組織の代表ですから、そういう方々と大いに議論してやればいいと思います。(一方、加計学園は)ひとつの特定の業者、特定の会社なんですよ。それも、許認可を求めている人と許認可をする立場。これは今回の特区に限らず、大学設置審議会も政府の一部ですよね」

 ようするに、安倍首相は、許認可を求める側とする側という立場の癒着を指摘され、詭弁でかわそうとしたが、その詭弁を瞬時に見抜かれ、生放送で大恥をさらしたわけである。安倍首相は目をキョロキョロさせて、こんな苦しい言い訳をするのがやっとだった。

「いわば彼(加計氏)とは、40年来の友人ではありますが、なぜ友人であり続けることができたかと言えばですね、できたかたと言えば、まあ、彼はたしかにですね、いろんな学部をつくっています。でもその学部ごとに、一度もですね、私にその学部の説明をしたり、依頼されることはありませんでした。友人というのはですね、お互いに相手の地位を利用するということをした瞬間にですね、これは友人ではなくなるんだろうと。そういうことがなかったからこそ、私はこの40年間友人であり続けることができたと、こう思っています」

 バカも休み休み言え。「お互いの地位を利用した瞬間に友だちじゃなくなる」なんて、そんな見え透いた美辞で国民が納得するとでも思ったのか。なら聞くが、2014年、加計学園が運営する千葉科学大学の開学10周年記念式典に参加し、壇上で「30年来の友人である私と加計さんはまさに腹心の友」と祝辞を述べたのはどこの誰なのか。もし、安倍氏が政治家でなかったら、加計理事長はわざわざ記念式典に呼んだだろうか。そんなはずがないだろう。笑わせてくれる。

■萩生田光一が「公平中立」を盾に、テレビ局に恫喝文書を送りつけ圧力

 このように、25日のニュース番組行脚では、露骨な印象操作に終始して、国民の疑問に対して「丁寧な説明」などと一切する気がないことを見せつけた安倍首相。そのなかで『NEWS23』は唯一、安倍首相に一太刀浴びせたかたちだ。ちなみにいま、ネトウヨたちは、『23』で星氏のイヤホンからディレクターの指示の音声が漏れていたことを、なにか鬼の首をとったかのように騒いでいるが、だからなんなのか?としか言いようがない。時間が限られている生放送で、だらだらと自分のPRだけやろうとした安倍首相に対し、番組側が少しでも国民が注目する部分に話をもっていこうと努力するのは当たり前だろう。

 ただ、『23』での安倍首相のイラついた態度を見ていて、不安がよぎったのは、またぞろ安倍首相が選挙を盾に、テレビ局への圧力を強めていくのではないかということだ。実際、一昨日の生出演でも安倍首相は、加計問題をめぐる前述の八田氏や原氏、加戸氏の国会での発言について、「そういう証言もですね、しっかりとですね、報道していただいて」「加戸知事がせっかく誠意をもって国会で証言してるんですから、その証言についてもですね、誠意をもってですね、報道の立場として報道もしていただきたい」などと、露骨に報道への文句をぶちまけていた。あきらかに、政治権力をチラつかせた放送局への恫喝・介入としか言いようがないだろう。

 なにより周知の通り、安倍政権には2014年末の解散総選挙の際の“前科”がある。『NEWS23』がアベノミクスについて否定的な街頭インタビューを報じたことに対し、安倍首相は「厳しい意見を意図的に選んでいる」と陰謀論まがいの主張をまくしたててブチ切れ。放送から2日後に、在京キー局に向けて萩生田光一・自民党筆副頭幹事長の名前で〈選挙時期における報道の公平中立ならびに公正の確保についてのお願い〉なる恫喝文書を送りつけた件だ。今回も、「公平中立」をタテに「森友・加計問題に触れるな」などと言い出すのではないか。

 また、“自民VS小池新党の全面対決”という構図で、自民党と小池新党偏重報道が展開されるのではないかという危惧もある。夏の都議選報道では、テレビ朝日で〈自民と都民ファは同等程度。その他の党は、若干少なくてもいいが、7党については、差は少なくとも2:1以内にする〉という通達が出されたことを本サイトでは報じたが、実際、テレ朝以外の各局でも「自民、都民ファ、その他全部で2:2:1ぐらいの比率」で、自民と都民ファの偏重報道が展開されていた。

 このまま10月10日の公示日を迎え、選挙期間に突入するとテレビ報道が萎縮するのは目に見えている。マスコミは、今回の解散が森友・加計疑惑つぶしが目的であり、安倍首相が掲げたまやかしの“争点”になんの大義もないことを肝に銘じる必要がある。そして、政治権力による報道圧力に警戒し、決して屈さず、徹底して批判し続けなければならない。