無意味なサプリ

巨大な健康食品市場の深い闇
週刊現代
これだけ新聞やテレビで大々的に宣伝しているんだから効くのだろう。医学的根拠もあるに違いない。そう信じて飲み続けてきたのに……。メーカーが決して言わない、サプリの「不都合な真実」。

膝の痛みに効く?
階段の昇り降りの際、膝がズキッと痛む。そんな変形性膝関節症を抱える中高年を対象に、「関節痛を和らげる」「擦り減った軟骨が再生する」と喧伝され、現在最も売れているサプリがグルコサミンとコンドロイチンだ(両方が配合された商品も多い)。

だが、武蔵国分寺公園クリニックの名郷直樹院長は「飲んでもほとんど効果はない」と語る。

「グルコサミン、コンドロイチンが軟骨の成分であるのは事実ですが、サプリメントとして経口摂取しても軟骨は再生しません。

グルコサミンやコンドロイチンは、糖やアミノ酸からできており、体内に入ると分解される。それが、再びグルコサミンやコンドロイチンに再合成され、膝の軟骨になるとは考えづらい。

髪の毛の成分を飲んだからといって髪は生えないのと同じで、軟骨の成分を飲んだからといって、軟骨は再生されないのです」

その上、膝などの軟骨部分には血管が少なく、摂取したものが届くのかも不明だ。

’10年9月には英国医師会誌『BMJ』に「グルコサミン、コンドロイチンが関節や股関節の痛みに効くという明確な結果は得られなかった」という研究報告が掲載された。

また世界的権威のある医学総合誌『ニューイングランド・ジャーナル』(’06年)でも「1583人を4グループに分け、コンドロイチン単体、グルコサミン単体、その両方、偽薬単体を6ヵ月間投与したが、はっきりとした差は出なかった」との報告が発表されている。

「本当にその症状に効くというデータが実証されれば、医薬品として承認されるはず。しかし、グルコサミンやコンドロイチンのサプリに、今のところそんな気配はまったくありません」(名郷氏)

サプリの広告やパッケージに謳われている効果は、医学的に実証されたものではない。にもかかわらず、あたかも効果があるように宣伝するのは「誇大広告」と言われても仕方がない。

消費者庁も問題視
先頃、バストUP効果とダイエット効果を同時に叶えることができると謳ったサプリメント「B-UP(ビーアップ)」に対して、消費者庁は「景品表示法違反」に当たるとして措置命令を下した。

消費者庁・食品表示対策室の担当者が語る。

「販売元のミーロードにこのサプリの効果の裏付けとして、合理的な根拠を出すように指示しましたが、適切な資料は出てきませんでした。

つまり、パッケージやWEBサイトに書かれたような効果は実際はなく、『いい加減な商品』だったというわけです。

このまま販売すると消費者を欺く可能性があるので、景品表示法違反として、消費者へ周知徹底をするように指導しました」

サプリには医学的、科学的根拠がない――。

グルコサミン同様、変形性膝関節症に効くと言われているヒアルロン酸も、国立健康・栄養研究所の報告では「ヒアルロン酸注射(関節内投与)については一定の効果が認められているが、経口摂取によるヒトでの有効性について信頼できるデータは見当たらない」と断言されている。

『そのサプリ、危険です!』の著者で、予防医療サプリメントアドバイザーを務める柴田丞氏が語る。

「いくらサプリでヒアルロン酸を飲んでも、グルコサミンやコンドロイチンと同じく、それが直接関節に作用するわけではありません。体内でブドウ糖とアミノ酸に分解されるだけです。

メーカーの宣伝には『痛みが消えた』『歩くのが楽しくなった』という使用者の声が多数掲載されていますが、それが本当かどうか確かめるすべはありません。そもそも痛みは数値化できるものではないので、本人の思い込みによる部分が大きく、エビデンス(医学的証拠)に乏しい。

効果が解明できないことを逆手にとって、悪質なメーカーが粗悪品を出していることもある」

あくまで「健康食品」
サプリを含む健康食品は、今や売り上げが2兆円に迫る巨大な産業にまで成長。’12年に内閣府消費者委員会が発表した調査によると「50代以上の約3割が健康食品をほぼ毎日利用している」という。

だが、そもそもサプリメントとは「医薬品」ではなく、あくまで「健康食品」でしかないことを忘れてはならない。

「サプリと医薬品の違いは、規格があるかないかです。医薬品には規格があり、原料がどのようにして製造され、どのような保管をされ、どのように販売されるかすべてに対して一定の基準を満たしていなければならない。

当然、効果に対しての根拠も厳しく求められる一方で、どの病気や症状に効くのかをはっきりと表示することができる。

これに対して、サプリは栄養補助食品であり、病気を治す医薬品とは明らかに違います。なのでサプリは『〇〇に効く』という露骨な表現はできません。しかし、それさえ謳わなければ、確固とした根拠がなくとも、食品なので販売できてしまうのです」(前出の柴田氏)

サプリは12種類のビタミンと5種類のミネラルのいずれかが一定量含まれていれば、厚生労働省に届け出をすることもなく「栄養機能食品」と表示することができる仕組みになっている。

そのためサプリ市場への参入は敷居が低く、極端なことをいえば一般人でも原料を買って、工場と契約すればサプリを作り、販売できてしまう。実際、そういった受注を請け負う工場も存在する。

とはいえサプリを飲んでいる人の中には、実際に効果を感じている人もいるだろう。

「確かに、効くと信じて飲むことで『プラシーボ効果』(思い込みによる偽薬効果)により、体調がよくなったと感じる人がいます。

しかし、それはあくまで気持ちの問題であって、医学的に効果があったことを証明することにはなりません」(大学病院の内科医)

ビタミン剤も…?
グルコサミンなどに次いで多くのメーカーが販売しているのがビタミン剤である。

だがその効果のほどはやはり怪しい。

サプリ大国、アメリカでは、’13年にマルチビタミンサプリを含むほとんどのビタミン剤について、「明白な恩恵があることは証明されなかった」という論文が科学誌『アナルズ・オブ・インターナルメディシン』に発表され、大きな話題を呼んだ。

テキサス大学教授で、同誌の副編集長でもあるシンシア・マルロウ医師が言う。

「確かに現代の食生活ではビタミン不足の人が増えています。だからといって、マルチビタミンのサプリを摂るのは間違いです。

その人にどんなビタミンが不足しているか検査もせず、個々人の体調を無視してマルチビタミンを摂り続けても意味はない。それどころか、飲みすぎると害になる可能性すらあることがわかりました」

マルロウ氏によれば、ビタミンAやビタミンE、ベータカロチンなどは、体内の酸化を防ぐ抗酸化作用があり「アンチエイジングやがんの予防にもつながる」と宣伝されているが、摂取しすぎると「若返るどころか、がんを促進し寿命を縮める」危険性があるという。

サプリメントに詳しい銀座東京クリニックの福田一典院長が解説する。

「抗酸化作用があると宣伝されているサプリは老化を防ぐと言われますが、それは激しい運動をして活性酸素がたくさん出た場合には多少は効果があるかもしれない、という程度の話です。運動もせずに抗酸化サプリを飲むと、逆に健康を害する。

身体というのは多少の酸化傷害があると、それを消去するために、自分の体内で抗酸化酵素を作ります。ところが抗酸化サプリを飲むと、そういう身体の働きが無くなってしまい、がんの発生を促進するのです」

アレルギーを引き起こす
日本では早くから健康食品として製品化され、「がん予防にもなる」と喧伝されるクロレラ。だが、実は国民生活センターの健康被害報告では上位にのぼる。

『病気になるサプリ 危険な健康食品』の著者で法政大学教授の左巻健男氏が語る。

「動物実験の結果しかないため、がんに対するクロレラの有効性を示した科学的データはありません。クロレラは細胞壁が非常に硬いため消化分解しづらく、過剰に摂取すると肝機能障害を起こすことが分かっています」

近年「元気の源」「疲労がとれる」サプリとして一気にブームになったのが、コエンザイムQ10だ。

エネルギー代謝を活発にして、疲労回復や美肌効果、加齢による体力の衰えを回復させる効果が期待できると喧伝されているが、体内のコエンザイムQ10が減ってしまった後、外から補給したとしても、本当にエネルギー生産が活性化されるかは分かっていない。

男の夜の営みにビンビン効くというマカはどうか。

「これも科学的な有益性は認められていません。しかも粗悪品が非常に多い。’08年に愛知県の食品販売業者が販売したマカサプリが原料の段階で放射線照射されていたことがわかり、回収命令が出たことがあります。

最近、個人輸入でサプリを購入する方が多いのですが、マカなどの男性機能改善系サプリを調べたところ50種類中35種類にバイアグラの成分が入っていたという事例もあります。

バイアグラは医薬品であり副作用も多く、心臓への負担も大きい。だから、男性器機能改善系のサプリは極力、個人輸入で買うのは避けたほうが良いでしょう」(前出の柴田氏)

お肌がプルプルになると言われ、アンチエイジングのサプリとして女性に親しまれるコラーゲン。だが、このコラーゲンもまた経口摂取による効果は認められていない。

コラーゲン鍋を食べた後、肌がプルプルになったという人がいるが、それは思い込みにすぎないのだ。

薬剤師で医薬情報研究所(株)エス・アイ・シー取締役の堀美智子氏が語る。

「最近は『低分子コラーゲン』といって、吸収を早めると謳うサプリも出ていますが、結局は体内でアミノ酸やペプチドに分解されてしまい効果はないという説もあり、効果のほどは未知数です」

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同じく美白や若返り、更年期障害に効果があると、盛んに宣伝されているプラセンタも効果のほどは疑問だ。

「プラセンタとはいわゆる『胎盤』のことです。この胎盤から抽出したエキスに美容効果があると考えられ、医薬品としても使われていますが、その医薬品ですら効果は不確かなものです。

ちなみに市販されているプラセンタはヒトではなく牛や豚、馬などの胎盤を使っている。これがヒトにどの程度、効果があるのかは不明です」(前出の左巻氏)

さらにサプリで心配されるのがアレルギーだ。

蜂蜜を原料にして「抗菌作用がある」「炎症を抑える」などと言われるローヤルゼリーやプロポリスは、経口摂取における有効性については十分なデータが見当たらないばかりか、アトピーや喘息などの既往歴がある人は、アレルギー反応が高い頻度で起きることが分かっている。

重篤な場合は「アナフィラキシーショック」を発症し、死に至ることすらあるのだ。

巧妙なテレビCM
またサプリを摂る際は薬との「飲みあわせ」も重要になってくる。

「青魚に含まれるDHAやEPAなどは血液を固まりにくくし、サラサラにする作用がありますが、ワーファリンなどの抗凝固剤を飲んでいる人がこれらのサプリを併用すると、出血などの副作用を引き起こす可能性があります。クロレラ、納豆、青汁などのサプリも摂ってはいけません。

サプリといえば、普通カプセルをイメージしますが、たとえば『DHA入りのソーセージ』や『大豆イソフラボンもやし』のように食品形状のものもあります。

国立健康・栄養研究所のHPには、機能性表示食品について『一日の(目安)摂取量』が掲示されていますが、知っている人はほとんどいないと思います。知らず知らずのうちに摂りすぎていて体調を崩している人も多い」(前出の堀氏)

前出の左巻氏も続ける。

「中高年の中には、サプリにおカネをたくさんかけている人がいます。でも基本的にほとんどのサプリには、効果がないと思ったほうがいい。栄養ドリンクで『タウリン1000㎎配合』とか謳われると沢山入っている気がしますが、わずか『1g』ですからね。効果が分からず、しかも微量しか入っていない。これはサプリも同じです」

それでも「人より少しでも健康になりたい」とサプリに飛び付く人が大勢いるのはなぜか――。

それは広告による影響が大きい。

サプリの広告を見ると、あたかも抜群の即効性があるかのような宣伝文句が並ぶ。だがよくよく見ると、決して「効果がある」とは謳っていない。繰り返しになるが、サプリは医薬品ではないため「○○に効く」とは法律上、謳えないのだ。

そこで各メーカーは「それっぽい言葉」を並べ、巧妙に消費者の購買意欲を煽っている。分かりやすいのがダイエット系のサプリである。

「『ブヨブヨお腹がたったの1粒で……』『飲むだけでドンドン落ちる』といった文言がありますが、これは虚偽誇大表示に当たるおそれがあります。

摂取カロリーを消費カロリーが上回らないかぎり人は痩せないというのが専門家の見解です。よくもっともらしい体験談やもっともらしい試験結果が載っていますが、消費者の方は気をつけてほしいですね」(前出の消費者庁担当者)

テレビCMや新聞広告で、有名人が「このサプリのおかげで元気になりました」と満面の笑みで語っている姿をよく見かけるが、画面や紙面の端には小さく「個人の感想です」と、しっかり注釈が出ている。

「サプリの世界は、騙したもん勝ちなんですよね。特許出願とか、学会に発表されたとか、新聞報道されると、すぐそれで権威付けして売るわけです。たとえ効果が仮説段階であっても、メーカーはいかにも実証されたように宣伝することができる。

以前、クルクミンとか赤ワインに含まれるレスベラトロールなどの効能をねつ造したとして、アメリカの大学の教授が自殺した事件がありましたが、会社から研究費をもらったら、その会社にネガティブなデータなんて出せないですよ。売るために法律ギリギリのところでやっているメーカーも少なくない」(前出の福田氏)

このように売り上げを伸ばすために、法律の隙間を縫って「誇大広告」を続けるメーカーが跡を絶たない。しかし、なぜそんなことが許されるのか。

それは「違反しても厳しい罰則がないから」と前出の柴田氏は語る。

「東京都福祉保健局の最新の調査によると、125品目中105品目が表示広告に関する法例違反またはその疑いがあることが判明しています。それだけ誇大広告が多い。

もちろん国も注意してはいるのですが、再発防止を求める措置命令だけで回収や営業停止命令は滅多にない。仮に数百万円の罰金を科せられても、その間に何億円と稼いでいますから、メーカーは痛くもかゆくもないのです」

その結果、ネット通販などでは怪しげなダイエットサプリなどが横行する事態となっている。特に価格が安すぎるものや海外産のサプリには注意が必要だ。

「100円ショップなどで売られている『安すぎるサプリ』はやはり安全面が心配されます。海外の衛生状態がよくない工場で製造されている可能性もあるので、生産地を見てください。栄養素は10%で残りの90%はすべて添加物といった粗悪なサプリも少なくありません」(前出の柴田氏)

ネットで買うのが最も危ない
過去にはサプリによる死亡事件も起こっている。

「中国産のダイエットサプリ『せん之素こう嚢』をネットで購入し、飲んだ女性が肝機能障害を起こして亡くなったという事例がありました。

しかも恐ろしいことに、今度は商品名とパッケージだけを変えて、中身は全く同じものが販売されていたのです。このようにネット販売だとどんな成分が使われているかも確かめることができません。もし何かあった時に確認できるリアル店舗で買ったほうがまだいいでしょう」(前出の堀氏)

パッケージに記載されている成分表示をきちんと確認することはもちろんだが、中には成分表示がきちんと明記されていないサプリもあるので、それらには手を出さないほうがいい。

では値段が高いものを選べばいいかと言うと、そう単純でもない。

「『高いほうが効きそう』という消費者の心理をついて、本当は安い原価の商品を何十倍もの値段をふっかけて販売している業者もあります。

業界の常識では、ほとんどのサプリは原価率が10%以下と言われている。これだけ原価が低いのは、大量の宣伝広告に多額の費用がかかるため。その宣伝費を確保するために原価に大幅な上乗せをしているのです。

値段の高い、天然ものは安全かもしれませんが、だからといって効果があるとは限らない」(前出の左巻氏)

サプリメントは「魔法の薬」ではない――。

「サプリは、高額なおカネをかけて飲むほどのものじゃないと思います。生活習慣の改善をせずに、『サプリさえ飲んでいれば健康になる』と安易に考えるのは大きな間違いです」(前出の名郷氏)

メーカーの甘い宣伝文句に踊らされ、生活習慣を見直す努力を後回しにしてはいけない。