日本の子どもの「7人に1人が貧困」だと知っていますか? 原因は「親」じゃない

日本の子どもの「7人に1人が貧困」だと知っていますか?
原因は「親」じゃない

ら見ても、日本の子ども、特に母子家庭の子どもの貧困は深刻な状況にあるということをご存じだろうか。

貧困家庭の子どもの学力支援を行うNPO法人を運営する渡辺由美子氏は、それは日本社会の構造の問題であるという。いったいどういうことなのだろうか。

私が運営するNPO法人キッズドアは「日本の子どもの貧困」という社会課題に約10年間携わってきました。
日本の子どもの貧困が深刻だと見聞きしても、「どこにそんな子どもがいるの? 私の周りには貧困な子どもはいない」と思う方は少なくないでしょう。しかし、日本には貧困な子どもはたくさんいますし、その生活ぶりはかなり厳しいものです。

そして重要なのは、日本の子どもの貧困は親の責任ではなく、日本社会の構造上の問題だということです。

教育が「親まかせ」の国、日本
日本では、子育てと教育に親のお金がとてもかかる国です。諸外国と比べてみても、子育てや教育をこれほど親任せにしている国はありません。その結果、親の所得がダイレクトに子どもの学力に反映してしまう教育格差が生じたり、貧困な親の元に生まれた子どもは、自分たちも貧困になってしまうという「貧困の連鎖」が起こるのです。

現在、結婚したり、子どもを産んだりすることを選べない若者が増えています。大学を卒業し社会に出ても、多額の奨学金の返済と、ベースアップ(基本給の値上げ)を上回る社会保障費の負担で、今の若者の多くに生活の余裕はありません。「自分が子どもを育てられるとは、とても思えません」という若者のSOSを社会は本気でキャッチしなければなりません。

子どもの貧困も、少子化も、根本原因は「子育てや教育に税金を投じられていない」という日本の社会構造の問題なのです。

およそ7人に1人の子どもが貧困
貧困を測る尺度には、絶対的貧困と相対的貧困という二つの尺度があり、先進国では相対的貧困という尺度を使います。日本の子どもの貧困率は13.9%、およそ7人に1人の子どもが貧困です(厚生労働省「平成28年 国民基礎調査/貧困率の状況」より)。また、日本ではひとり親家庭の子どもの貧困率は50.8%ととても高く、これはOECD加盟国の中でも最悪です。日本ではひとり親家庭の85%が母子家庭ですので、母子家庭の貧困とも言えます。

例えば、母親と子ども一人の二人世帯では、貧困ラインは年間の可処分所得が177万円未満になります。平均ではなく「未満」ですので、貧困家庭では皆それ以下の収入で子育てをしているのです。アパートを借り、ご飯を食べさせ、さらに教育も与えなければなりません。とても厳しい生活です。

日本の子どもの貧困の特徴は、見た目では分かりづらいということです。私たちの無料学習会や居場所に通う子どもも、ボロボロの服を着ていたりする子はいませんし、中学生になればスマホを持っている子も少なくありません。日本は非常に同質性を好むので、「貧乏」と思われないために、子どもも親もとても気を使っています。しかし一歩家庭に入れば、食べ盛りの子どもに十分な食事も与えられないような生活実態なのです。

世界一働いているのに、世界一貧困率が高い
「貧困」というと、「親が仕事をしていない」というイメージを持つ方も多いのですが、ほとんどの保護者は仕事をしています。日本のひとり親家庭の就労率は8割を超えており世界一です。世界一働いているのに、世界一貧困率が高いという究極のワーキングプアが日本の母子家庭なのです。

日本では女性が子どもを産むときに一度仕事を辞め、その後はパートなどの非正規雇用に就くことが長らく続いたために、離婚などで世帯主になっても女性であるとなかなか正社員になれません。母子家庭でも57%は非正規雇用です。「病気で休めば来月の収入が減ってしまう」というような不安定な就労で、子どもを育てなければならないのです。ひとり親家庭で収入が少ない家庭には、児童扶養手当なども支給されますが、収入制限があるために、支給を受けている方も決して生活が楽なわけではなりません。

ですから、低賃金の仕事をいくつも掛け持ちしている方が少なくありません。昼間にスーパーでパートをして、夕方、一度家に帰って子どもに急いでご飯を食べさせて、夜にコンビニや居酒屋に仕事に行ったり、夜遅くまで働いて、閉店間際のスーパーで見切り品の惣菜を買って子どもと夕食をとるというような生活です。子どもの話をじっくりと聞いたり、まして勉強を見てあげるような時間がありません。

貧困家庭の子どもに無料で勉強を教えているというと、「塾なんか行かなくても、親が家で勉強を教えればいい」という方がいらっしゃいますが、子どもに向き合って勉強を教える時間がないのです。

さらに、家の狭さがあります。限られた家賃で借りられる家は狭く、子ども部屋がないばかりか、勉強机がない家庭も少なくありません。家で机と言えるのは、食卓テーブルしかなく、狭い部屋で他の家族がテレビを見ている場所で、宿題や試験勉強をするのは困難です。私たちの学習会に通う子どもには、家ではお盆の上で勉強しているという高校生や、家では自分の膝の上しかノートを広げる場所がないという中学生がいました。

教育格差は、本人たちの努力だけで埋めることは難しいのです。

子育てにあまり税金が使われていない
日本で子どもの貧困率がこんなに高いのは、税の再分配が子どもや子育てに少ないからです。日本では高齢者に手厚く税金が使われているのに対して、現役世代や子育て世代には、あまり税金が使われていません。

世帯類型別の所得再分配調査でも、高齢者の再分配係数が突出して高く、母子世帯やそれ以外の子育て世帯は、ほとんど再分配のメリットがありません。もう少し子育て世帯に税金を使って欲しいというと、「国も借金が膨らんでいるので難しい」と言われますが、再分配の比率をもう少しバランス良くすることは可能なはずです。

また、日本では教育にも税金を使っていません。資源がない日本では「人」こそが資源と言われており、また学力テストの世界比較でも常に上位を争う高い学力から、さぞ教育に税金を投じていると思っている方も多いと思います。

しかし日本は、先進国の中で最も教育に税金を投じていない国なのです。2018年発表のOECDの調査でも、教育機関への公的支出割合は加盟国中最下位でした。実は日本の教育は、親が私費で負担をすることで、高いレベルを維持していると推察できます。

例えば、日本では高校進学率は97%を超えていますが、いまだに高校は義務教育ではありません。受験しなければ高校に行けず、そのために多くの子どもが塾に通うというと海外の方に驚かれます。高校を卒業後に大学や専門学校で学ぶための学費はかなり高く、これも家庭で負担しなければなりません。給付型奨学金もようやくできましたが、まだまだ支給額も人数も少なく、多くの学生が貸与型奨学金を借りたり、教育ローンを利用しています。

海外では、大学や大学院も学費が無料や低額だったり、学費は高いけれど給付型奨学金制度が整っている国も多いのです。

ある時アジアの若者に、日本の教育制度の話をしたら、「あなたの話を聞いていると、お金のない子どもは大学に行けないようですが私の理解はあっていますか?」と質問されました。貧しい国でも、頑張って勉強すれば良い教育を受けられるのが当然なのです。

子どもは親を選んで生まれてくるわけではありません。だからこそ、どんな親の元に生まれても平等なチャンスが与えられるべきなのに、今の日本では、貧困な親の元に生まれると、経済的理由で十分な教育を受けることができず、その結果「貧困の連鎖」から抜け出すことができないのです。

貧困対策は「福祉」というより「投資」
私たちキッズドアは、貧困家庭の子どもを対象にした無料の学習支援を行なっています。これは子どもや親が助かるだけではなく、国にとっても大きなメリットがあります。

もし貧困家庭の子どもが勉強でつまづき高校に進学できなければ、安定した仕事に就くのはかなり難しく、家族の支えや、場合によっては生活保護などが必要になります。しかし、学習支援を受けて高校や大学に進学し就職をすれば、しっかりと稼いで税金を納められます。

貧困対策というと「福祉」として捉えられがちですが、将来の日本の支えてを作る「投資」なのです。日本財団の試算によると、子どもの貧困対策は15歳の1学年を取っても2.9兆円の経済的損失を防ぎ、さらに1.1兆円の社会福祉費の削減効果があると言われています(2015年「子どもの貧困の社会的損失推計レポート」より)。

子どもは日々成長し、少子化は急速に進みます。予測では2030年には高齢化率が30%を超えます。今の子どもたちがしっかりと働ける人材になっているかどうかが、2030年の高齢者の福祉に直結するのです。決して遠い未来の話ではありません。国民全体で、もっと子どもの貧困や少子化を真剣に議論することが何より重要だと私は考えます。