国有地が異常な安値で取引される。その知恵を国側がつけていた

 森友学園の補助金不正受給問題で、籠池前理事長夫妻が詐欺の疑いで逮捕されてから1週間。ここへきて、事件の“本丸”である不可解な国有地取引について、新たな証拠がボロボロ出てきた。森友学園にタダ同然で土地を譲渡できるよう、国側が道筋をつけて便宜を図ったことを裏付けるものだ。

 森友事件の発端は、評価額9.5億円の国有地が約8億円も値引きされて払い下げられたことにある。その上、国は地中ゴミの撤去費用として1億3000万円を支払っていて、森友学園は実質200万円で手に入れた。籠池夫妻はここに「安倍晋三記念小学校」を建立する予定だったのだ。

 3日の報道ステーションは、森友学園が土地の購入を申し入れてから6日後の去年3月30日に籠池夫妻と当時の弁護士、設計会社、施工会社が打ち合わせた際の「メモ」が見つかったと報じた。

 そこには、「航空局、財務局、彼らのストーリー。調査ではわからなかった内容で瑕疵を見つけていくことで価値を下げていきたい」「9メートルの深さまで何か出てくるという報告をするよう、財務局から森友学園側に言われている」と書かれていた。地中から新たに出たゴミを理由に、国有地が異常な安値で取引される。その知恵を国側がつけていたことをうかがわせる。メモには「国賠請求をしない条件として、評価額を下げる方向を向いている」「航空局も同意」などとも記されていた。

■音声データの生々しいやりとり

「この国有地取引について、通常国会で当時の佐川理財局長は『事前の価格交渉はしていない』と答弁していましたが、それが虚偽答弁だった可能性が高まった。それどころか、森友学園の支払いをほとんどゼロにするための方策を国側が授けていた疑いまである。怪しげな籠池夫妻に対し、国がそこまで便宜を図ったのは、背後に安倍夫妻の存在があるとしか考えられません。『自分や妻が関わっていたら議員も辞める』とタンカを切ってしまった安倍首相は内閣改造で目先を変え、籠池夫妻の逮捕で森友問題にフタをしてしまいたいのでしょうが、そうはいきませんよ」(ジャーナリスト・横田一氏)

 FNNが入手して公開した音声データには、さらに生々しいやりとりが録音されていた。安倍昭恵夫人の名前を出して、土地の大幅値引きを迫る籠池サイドの談判もかなりえげつないのだが、近畿財務局の担当者だった国有財産統括官がこう言っているのだ。

「(籠池)理事長がおっしゃられる『0円に近い』が、どういうふうにお考えになられているのか、売却価格が0円ということなのかなと思うが、私ども、以前からちょっと申し上げているのは、有益費(ゴミの撤去費)の1億3000万円という数字を、国費として払っているので……その分の金額ぐらいは少なくとも、売却価格は出てくる、と。そこは何とかご理解いただきたい」 

 で、実際に売却された金額が約1億3400万円。ゴミ撤去費用にわずか200万円を上乗せしただけだった。これらの会話が録音されたのは昨年5月。国有地の正式な鑑定価格が出る前である。

「これまで財務省は、鑑定価格からゴミの撤去費を差し引いて、売却価格を算出したと説明していましたが、森友学園の支払いを実質ゼロにするために、後からつじつま合わせをしたことは明らかです。それなのに、国会答弁で『記録は廃棄した』と繰り返し、ウソまでついて安倍政権を守り通した佐川理財局長が国税庁長官に出世したことはブラックジョークでしかない。財務省の悲願である消費税10%実現のため、政権に恩を売っておこうと考えたのかもしれませんが、首相夫妻に近い人に税金を使った利益供与が行われていた疑念が深まる中、公平性を歪めた組織の当事者が、税を徴収する組織のトップに就けば、税の公平性を担保出来ません。どのツラ下げて納税をお願いするのかという話で、国民をバカにしているとしか思えません」(横田一氏=前出)

 佐川国税庁長官が着任して1カ月以上。慣例の就任会見はまだ開かれていない。やましいことがないのなら、堂々と公の場に出てきたらどうなのか。

 いつまでも、そうやって逃げ回るつもりかもしれないが、フザけた人事に納税者は怒り心頭だ。すでに、佐川国税庁長官の罷免を求める署名活動が全国で始まっている。主体である「森友・加計問題の幕引きを許さない市民の会」の醍醐聰東大名誉教授は「税金の元締がモラルハザードの張本人となっている」と厳しく批判していた。

 政治学者の五十嵐仁氏もこう言う。

「財務省は書類を廃棄しても許されるのに、納税者に厳しくあたれるのか。国税庁には抗議の電話が殺到しているというし、現場の徴税官もやりづらくて困っているはずです。国民より政権の方を向いて仕事をしている官僚が出世するようでは、税の公平性だけでなく、行政全体の公平性を疑わせる。真面目に働いて納税するのもバカらしくなります。これでは、行政全体への不信感を増幅する人事を認めた側にも問題がある。結局、安倍政権はまったく反省などしていないし、国民をナメきっていることの表れです」

■組織ぐるみで国民を欺いた

 政治家や官僚の国会答弁で「記憶にない」は常套手段だが、そこには、さすがに国会で嘘をつくことはできないという敬意なり矜持が多少はあったはずだ。ところが、この政権では、みんな平気で嘘をつく。国会冒涜の代表格といえるのが佐川氏で、「データは自動的に消える」とまで言い切った。

 そういう人物の長官昇進を「国会で丁寧な説明に努めてきた」「国税庁次長なども務めており適材だ」と是認したのが麻生財務相である。麻生自身も、森友学園への国有地売却は「適正な手続き、価格で処理処分された」と答弁していたが、新たな音声データのやりとりが財務省の説明と食い違うことを問われると、こう言い放った。

「取材が正しいか、我々の答弁が正しいか。取材の方が正しいと思ったことはありません」 

「籠池さんは逮捕されたんでしょ。逮捕された人に話を聞いて、こちらがどうのこうの言うことはありません」

 これだけ決定的な証拠が出てきても、知らぬ存ぜぬの鉄面皮である。音声データは怪文書ならぬ「怪音声」扱いか。大臣以下、組織ぐるみで国民を欺く財務省。こんな背任組織は国民にとって害悪でしかない。大臣から幹部まで総退陣が必要ではないか。

「安倍政権の国家私物化によって、この国のガバナンスが破壊されてしまった。国民から信頼されなければ、国家は成り立ちません。それでいいのか、そういう政権の存在を許すのか。森友問題は、単に国有地売却の疑惑というだけでなく、安倍政権にも、有権者にも多くの問題を突き付けている。新たに出てきた証拠を無視し、籠池夫妻の逮捕で幕引きでは、国民の怒りは収まりません。政権への不信感は消えず、内閣不支持が増え続ける。隠蔽工作は政権のクビを絞めるだけです」