「鴻池メモには、事務所の「陳情記録」のほかに、工事業者が作ったと思われる「打ち合わせ記録」もある。2015年9月のものには、近畿財務局から工事業者に、ゴミ処分費用が予算化できないのでゴミの場内処分(ゴミの埋め戻し)の提案があった。(下図参照)」
「近畿財務局の折衝記録がないとすると、「鴻池メモ」だけとなるので、もし訴訟になれば近畿財務局(国)がかなり不利になるだろう。」
「筆者の推測は、近畿財務局がそうした手順をサボった上で、ゴミの事実を隠して随契したので、森友学園に弱みを握られてしまった。だからその後、近畿財務局が森友学園を厚遇せざるをえなくなったである。」
産業廃棄物処理法違反の弱みを握った政治家+籠池氏が、話しの主導権を握ったと…
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関与」の意味を履き違えている
国会では2017年度予算が成立した。しかし、野党は森友学園問題について今後も追及を続ける方針のようだ。さらには、安倍首相の友人が理事長を務める「加計学園」にも追及の矛先を向けている。
こうした野党の戦略は奏功するのか、残りの国会でほかに審議すべき重要な問題はないのか。
森友学園事件の本質はなにかといえば、国有地売却において、価格等で籠池氏がなにか便宜を図ってもらったのか、もし便宜があったのなら、政治家による働きかけがあったかである。
籠池氏は「財務省による便宜があった。誰かの政治的な関与があったのではないか」と国会で証言した。また、昭恵夫人から100万円の寄付を受けたとも証言した。
これに対して、財務省は国有地売却については法令に基づき適切に行ったという。安倍首相は、国有地売却にかかる働きかけは、本人、夫人、事務所も一切行っておらず、夫人の寄付も行っていないという。もし、国有地売却で関与をしていたら、安倍首相は議員辞職もするといっている。
野党は、安倍首相のこの発言に反応して、安倍首相が「関与」していたら議員辞職に追い込めるとおもい、政治攻勢をかけている。
しかし、「国有地売却での働きかけ」という前提を無視して、広い意味で「関与」を捉えている。その一例として、夫人付き職員のファックスを「関与」の実例として、国会で追及している。
このファックスについては、先週の本コラム(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/51312)で述べたように、特別ではなく普通の公務員回答であり、行政の意思決定には無関係であるので、問題はどこにも見えない。
先週このファックスについて、テレビ朝日『羽鳥慎一モーニングショー』(テレビ朝日)に出演していた官邸勤めの経験のない元公務員らから、「夫人付き官僚はノンキャリアだが、財務省室長はキャリアなので話ができるはずない。他省庁の話まで夫人付き官僚が答えているのは不自然」との説明があった。
たまたま番組をみていた筆者は、おやっと思うことばかりだった。
そこで、すぐ検証できるものとして、ファックスに名前のあった財務省室長の出身を、番組後に担当者に指摘した。件の室長は地方財務局の「一種採用」であり、本省では「本省一種(いわゆるキャリア)」扱いではない。この点は、後日の同番組内で訂正された。
また、ある省庁の職員が他省庁のことまで答えているのは、確かに普通はあり得ないことであるが、官邸に関して言えば各省庁にまたがった話ばかりなので、それほど不思議ではない。
テレビ局も、コメントを元官僚に求めるのであれば、それにふさわしい経歴の者を選んだほうがいい。
いずれにしても、このファックスは陳情に対して、行政の意思決定に介入するものではなく、制度に当てはめて回答できるものを機械的に回答しているにすぎない。この程度であれば、民主党政権の時にでも、似たような回答書が出てきても不思議ではない。
野党の論法は、安倍首相の発言の揚げ足取りに終始している。ファックスの件でも、内容はまったく意思決定に影響がないことを書いているのに、関係者が籠池氏に連絡したことを強調して首相の「関与」と言い張り、政局にしている。それをマスコミははやし立ている感じだ。
もっとも、先週の本コラムで書いたように、籠池証言に対する偽証、補助金不正受給などの刑事告発の動きも進んでいる。事実解明には、司法の場のほうが国会より望ましいだろう。
ここで、今一度、森友学園問題を振り返ってみて、筆者の推測する真相を述べたい。
初期の交渉が失敗した理由
行き詰まったときには原点、つまり国有地の売却に立ち返るといい。
この国有地は、伊丹空港への飛行機の着陸ルートの下にあり、伊丹空港の南端から3kmくらいの距離、名神高速道路のすぐ南にあった。(下図)
伊丹空港の騒音区域にある国有地は国土交通省大阪航空局が管理するが、その売却は財務省近畿財務局が行うこととなっている。騒音区域の縮小が決まったため、国有地売却が進められていた。
問題の土地はもともと一筆の国有地であったが、2010年3月、9492平方メートルを豊中市に売却した。また8770平方メートルについては、2015年5月に売買予約付き定期借地権付き貸借契約を森友学園と締結し、2016年6月に公共随意契約で森友学園に売却している。
豊中市への売却では、売買価格は14.23億円だった。しかしこの売買では、当時の民主党政権下の国交省と内閣府から補助金14億円が交付され、豊中市の2009年度決算で市の実質負担は0.23億円だった。
この売買直後の2010年3月、地中ゴミの存在は大阪航空局(国)から豊中市に「地下埋設物状況調査業務報告書」として連絡されている。そこには、「地下3メートルの地点に、コンクリート廃材、生活ゴミなどが埋設されていた。ゴミの混合率は8・9~28%」と記されていた。豊中市が調べると、たしかに敷地の8~9割にゴミがあった。
この売買、ゴミ連絡の順番だと、近畿財務局(国)と豊中市の間で一悶着あっても不思議ではないが、豊中市としては、地中ゴミがあっても結果として実質負担はほぼなしだったのでスルーしている。この土地は、「野田中央公園」となっている。
森友学園への売却では、近畿財務局との関係は複雑だ。
その土地の隣接地には大阪音楽大学があった。普通であれば、大阪音楽大学が購入してくれれば、それが一番手っ取り早い。そこで、2011年7月くらい、はじめに大阪音楽大学が7億円を提示したうえで、近畿財務局は大阪音楽大学と交渉したが、うまくいかなかった。
交渉が失敗した理由について、筆者は、大阪音楽大学が地中ゴミがあることを交渉途中に気づいたのではないかと推測している。ゴミの話は近隣住民に噂話としても入ってくるし、まして近隣地を購入しようと思えばなおさらだ。
ゴミ付きであることを知ったうえで7億円の提示はおかしいが、はじめは知らずに、その後で知ったと考えれば、この交渉の経緯がよく説明ができる。
3つのメモを注意深く読む
大阪音楽大学に売れないことで、近畿財務局はかなり焦ったことだろう。近畿財務局は、2013年6月に公用・公共用土地の取得要望を受け付け、同年9月、森友学園が取得要望を出してきた。
その後の森友学園と近畿財務局との交渉の経緯は、鴻池祥肇(よしただ)元官房副長官が暴露した、いわゆる「鴻池メモ」に書かれている。
このメモに関する国会質問に対して、近畿財務局の親元である財務省は答弁を拒んでいるが、過去に書かれたモノであることから、事件発生後の籠池証言より、筆者には事実に近いと思える。
「鴻池メモ」では、森友学園が2013年9月に土地取得に名乗りを上げてから、2015年5月の貸借契約まで2年近くも、賃料の折衝が森友学園と近畿財務局の間で行われたことが記録されている。財務省からの折衝記録の公開がないので、今のところ「鴻池メモ」をベースにするしかない。
そこでは、近畿財務局からは2015年1月に「賃料は年間4000万円」の提示があったと書かれている。一方、森友学園の希望は年間1200万円で、値引きをするように籠池氏が鴻池事務所に頼んでいる(下図参照)。この4000万円は土地評価10億円に対応する数字だ。
また、2016年3月のメモでは、近畿財務局から2015年9月に工事業者に不当な提案があったと、近畿財務局への怒りがある。(下図参照)
鴻池メモには、事務所の「陳情記録」のほかに、工事業者が作ったと思われる「打ち合わせ記録」もある。2015年9月のものには、近畿財務局から工事業者に、ゴミ処分費用が予算化できないのでゴミの場内処分(ゴミの埋め戻し)の提案があった。(下図参照)
籠池氏は、この近畿財務局の対応に怒ったわけだ。
そもそも、近畿財務局が提示した賃料4000万円は、ゴミのないきれいな更地を前提にした価格だ。しかし、近畿財務局が森友学園に賃貸した土地は、豊中市に売却した土地と隣接していたので、地中にゴミがあるのは容易に推定できたはずだ。
それを言わずに、さらに処分費用も出さずに場内処分を、というのでは、不誠実だと訴えられてもやむを得ない状況だ。近畿財務局の折衝記録がないとすると、「鴻池メモ」だけとなるので、もし訴訟になれば近畿財務局(国)がかなり不利になるだろう。
これが真相だろう
こうした経緯の後、賃借契約が売買契約に変更される。鑑定評価額は9.32億円。例の8億円値引き話は、この経緯から見れば、ある意味で自然だろう。むしろ筆者は、8億円がかなり人為的に作られたものかもしれないと推測している。
つまり、まともにゴミの処理費用を算出すれば、10億を超える可能性もあった。それでは近畿財務局のメンツが丸つぶれである。そこで、近畿財務局も顔が立ち、しかも小学校建設を急ぎたい森友学園としても大幅値引きになる「8億円引き」となった可能性がある。
もっとも、これは8億円の値引きが妥当といっているのではない。本来であれば、近畿財務局は処理費用が10億を超えてもゴミ除去を行って、その後まっさらな土地として入札を行えばいいのだから。その結果、仮にゴミ除去費用をまかなえなくても、国有地の売却としては仕方ない。実際、豊中市への売却でも、実質的な国の手取りはほぼゼロだからだ。
または、近畿財務局はゴミを除去せずにゴミが埋まっていることを明示したうえで入札してもいい。その結果、売却価格が安くなっても仕方がなかったはずだ。
筆者の推測は、近畿財務局がそうした手順をサボった上で、ゴミの事実を隠して随契したので、森友学園に弱みを握られてしまった。だからその後、近畿財務局が森友学園を厚遇せざるをえなくなったである。
いずにしても、これは筆者の推測でしかない。マスコミがみんな持っている「鴻池メモ」と豊中市への先行事例を読み解いただけの話だが、筆者の推測した真相では、近畿財務局のチョンボ、ということになる。
特に、訴訟案件になりかねない事案について、交渉記録を保存していないというのはにわかに信じがたい大きなチョンボである。
これに対し「法令に則して(保存していない)」というが、3月13日本コラム(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/51201)で指摘したように、官僚自らが決めた規則に基づくという意味である。これは早急に改める必要がある。
なぜマスコミからこうした話が出てこないのか不思議である。それは、「安倍首相が関与している」という話のほうが視聴者・読者受けするだろう。
しかし、森友学園への国有地売却では、隣接している国有地売却が民主党政権下で先に行われている。この経緯を調べないとおかしい。野党・民進党は、この先行事例についての言及を避けて、安倍首相の「関与」ばかりを追い求めているので、どこか的外れになっているようだ。
野党も、「関与」に拘泥して安倍政権を攻めるが、その流れに乗じて、財務省も近畿財務局のチョンボを認めないのは、やはり財務省が安倍政権をよく思っていないのではないか…と邪推してしまう。
財務省には「忖度」なんかなく、あるのは政権を潰しても自らの身を守りたい、という保身の精神だけだろう。