実は、この山口氏の準強姦事件がもみ消された経緯について、意外な人物が鋭い分析をしている。それは、作家の中村文則氏だ。中村氏といえば、売れっ子小説家には珍しく、安倍政権批判をはじめ、踏み込んだ社会的発言をすることで知られているが、毎日新聞7月1日付愛知版で、「疑問に思う出来事があった」としてこの事件に言及している。
それは、山口氏の不起訴決定時期と『総理』の刊行時期の関係についてだ。
山口氏は前出のフェイスブックの反論で、〈不起訴処分はすでに昨年7月に全ての関係者に伝えられています。私はこの結論を得て、本格的な記者活動を開始しました〉などと言っているが、これは大嘘だった。逮捕を免れ、書類送検となった山口氏に不起訴の決定が下ったのは確かに2016年7月だったが、フリーになった山口氏が処女作『総理』を出版し、同時に「週刊文春」(文藝春秋)で集中連載を始めたのは、それよりも前の、2016年6月9日。つまり、中村氏は不起訴より1カ月も早く、記者活動を開始していたのだ。
中村氏が疑問に感じたのは、まさにそのことだった。中村氏はこう指摘する。
〈そもそも、首相の写真が大きく表紙に使われており、写真の使用許可が必要なので、少なくとも首相周辺は確実にこの出版を知っている(しかも選挙直前)。首相を礼賛する本が選挙前に出て、もしその著者が強姦で起訴されたとなれば、目前の選挙に影響が出る。〉
〈でも、山口氏の「総理」という本が16年6月9日に刊行されているのは事実で、これは奇妙なのだ。なぜなら、このとき彼はまだ書類送検中だから。
しかもその(『総理』発売日の)13日後は、参議院選挙の公示日だった。だからこの「総理」という本は、選挙を意識した出版で、首相と山口氏の関係を考えれば、応援も兼ねていたはず。そんなデリケートな本を、なぜ山口氏は、書類送検中で、自分が起訴されるかもしれない状態で刊行することができたのか。〉
『総理』が不起訴決定より早く出版された意味
そして、それは、山口氏がなんらかのルートを使って、起訴がないことを事前に把握していたからではないか、と中村氏は分析するのだ。
〈山口氏が、絶対に自分は起訴されないと、なぜか前もって確実に知っていたように思えてならない。それとも、起訴にならない自信があった、ということだろうか。でも冤罪で起訴されることもあるから、一度は所轄が逮捕状まで取った事案なのだから、少なくとも、自分の不起訴処分が決定するまで、この種の本の刊行は普通できないのではないだろうか。〉
中村氏はこれ以上、具体的なことを書いていないが、この間、出てきた中村格氏や、内閣情報調査室トップの北村滋情報官との関係を考えると、裏で官邸が動き、首相のお友だちである山口氏にいち早く不起訴を知らせていた(あるいは不起訴になるようにもっていった)可能性は十分あるだろう。
そして、山口氏の前述のフェイスブックの反論は、嘘をついたわけではなく、事前に知らされていたため、不起訴決定後に本格的な記者活動を開始したと自分で錯覚してしまったということなのかもしれない。