森友学園 国有地売却問題 文書改ざん 佐川氏、立件見送りへ 「値引き」背任も困難 大阪地検特捜部

学校法人「森友学園」(大阪市)への国有地売却を巡り、財務省の決裁文書が改ざんされた問題で、大阪地検特捜部は、前国税庁長官の佐川宣寿氏(60)ら同省職員らの立件を見送る方針を固めた模様だ。捜査関係者が明らかにした。決裁文書から売却経緯などが削除されたが文書の趣旨は変わっておらず、特捜部は、告発状が出されている虚偽公文書作成などの容疑で刑事責任を問うことは困難との見方を強めている。今後、佐川氏から事情を聴いたうえで上級庁と最終協議する。

 国有地が不当に約8億円値引きされたとし、佐川氏以外の同省職員らが告発された背任容疑についても、特捜部は違法性があったとまではいえないと判断しているとみられ、立件は難しい状況だという。

 決裁文書は昨年2~4月、学園側との交渉記録に加え、安倍晋三首相の妻昭恵氏や複数の政治家の名が決裁後に削除されるなどした。当時、同省理財局長だった佐川氏が「学園と価格交渉していない」などと国会で答弁した内容に合わせるため改ざんされたとみられる。改ざん前の文書には「本件の特殊性」などとも記されていたが、趣旨は売却前の国有地貸し付け契約が通常より長期間にわたることを示すもので、了承を求めるものだったとされる。

 虚偽公文書作成罪は、権限を持つ者が文書の趣旨を大幅に変えることが成立要件となるが、改ざんが明らかになった14の決裁文書で契約方法や金額など根幹部分の変更はなく、特捜部は交渉経緯などが削除されるなどしても本質は変わらないと判断したとみられる。

 この他にも、佐川氏らは証拠隠滅や公用文書毀棄(きき)などの容疑でも告発されている。だが証拠隠滅については、背任事件の証拠を隠すことが前提になり、背任事件の立件が困難なために適用は難しいとみられる。公用文書毀棄は原則、文書そのものの廃棄を前提とするが、改ざん前の文書の一部やデータが残されていた。

 一方、国有地売却では、小学校建設中に多量のごみが見つかったため、国が8億円値引きして売却した経緯が問われた。小学校の名誉校長だった昭恵氏らに同省職員らが配慮したり自らの保身や学園の利益を図る目的で値引きしたりして国に損害を与えたとする背任容疑の告発が相次いでいる。

 しかし特捜部は、ごみの処理による開校の遅れを理由に、学園が国に損害賠償を求める意向を伝えた▽売買契約後にごみ問題でトラブルにならないよう、国に賠償請求できない特約が盛り込まれた--などの点を重視。値引きの背景には、ごみの処理の問題や賠償請求を避ける意味合いが一定程度あったとみている。

 背任罪の成立には「自己または第三者の利益を図る目的」があったという個人の意図を立証する必要がある。だが国有地売却には同省理財局や近畿財務局の多数の職員が関わり、組織全体で判断していることも立件の障害になったとみられる。【宮嶋梓帆、高嶋将之】

「8億円」疑惑、未解明のまま
 公文書改ざんや国有地の異例な値引きを巡って告発が相次いだ森友学園問題は、「なぜ8億円も値引きされたのか」という疑惑の根幹は未解明のままで、一連の問題が決着したわけではない。国有地で小学校開設を計画していた学園は2015年、国と借地契約を結んだ。だが、翌年に地中からごみが出たとして近畿財務局と協議し、土地評価額からごみ撤去費約8億円を引いた1億3400万円で購入。支払いも10年間の分割が認められた。

 昨年2月に問題が発覚して以降、撤去費の積算が過大だった疑いが次々に明らかになり、会計検査院も「積算の根拠が十分でない」と指摘。「異例ずくめ」の取引が実現した詳細な理由は不明のままだ。決裁文書の改ざんについても、関わった職員や指示系統は分かっていない。文書からは学園との交渉経緯の他、安倍晋三首相の妻昭恵氏の名前も消されており、職員らが忖度(そんたく)した疑惑は消えないままだ。