なぜセックスは隠れてするのか、鳥で研究

【動画】なぜセックスは隠れてするのか、鳥で研究

ヒト以外で唯一、優位のカップルも性行為を隠すアラビアヤブチメドリ

アラビアヤブチメドリ(Turdoides squamiceps)の英語名 Arabian babbler は、アラビアのおしゃべりという意味だが、名前に似合わず私生活を他言することはない。
 最新の研究によれば、群れのなかで優位に立つカップルであっても、アラビアヤブチメドリはわざわざ仲間から隠れて交尾を行うという。このような行動は人間特有のものと広く考えられてきた。(参考記事:「東ヒマラヤの新種――チメドリ」
「群れを支配するオスとメスはカップルとしてのコミュニケーションや交尾そのものを隠すため、相当な努力をしています」と話すのは、学術誌「Evolution and Human Behavior」誌の11月号にアラビアヤブチメドリについての論文を発表したイツチャク・ベン・モカ氏だ。「彼らはこっそり抜け出し、交尾し、戻ってくるのです」。氏はドイツ、マックス・プランク鳥類学研究所の博士課程に在籍している。(参考記事:「ヒット曲はますますヒット、鳥で判明、最新研究」
 性的な行動を隠す種は多い。だが、通常は支配者に従う「下位」のオスのみに見られる。下位のオスには、支配的で攻撃的な「最上位のオス(アルファオス)」から隠れるもっともな理由がある。しかし、ベン・モカ氏によれば、アラビアヤブチメドリは人間以外で唯一、支配的なオスとメスが習慣的に密会する種だという。
 アラビアヤブチメドリがその最も露骨な行動を隠すのは、主に社会生活のためだとベン・モカ氏は考えている。彼らは「共同繁殖」を行う。交尾をするのは通常、最上位のオスとメスだけだが、子育てには社会集団のメンバー全員が参加する。下位の個体も子供に餌を与え、縄張りを守り、捕食者を追い払う。(参考記事:「【動画】76羽のひな育てるカモ、なぜこんなことに」
 群れの中で堂々と交尾を行えば、特に、下位のオスが行為に加わろうとしたとき、衝突に発展する恐れがある。しかもチメドリの場合、負けたオスは群れを去らなければならない。言い換えれば、思慮深い行動は、厄介な社会的交換関係をとりつくろい、協力関係を維持する助けになるのだ。(参考記事:「【動画】衝撃、チンパンジーが元ボスを殺し共食い」

性生活を調査

 研究チームはイスラエル南部のシェザフ自然保護区で、3度の繁殖期を観察した。アラビアヤブチメドリが暮らす砂漠地帯に雨が降ると、散発的に繁殖が始まる。
 ベン・モカ氏は、メスが1つめの卵を産むまで待ち、その後、カメラで追跡する方法をとったという。アラビアヤブチメドリのメスは4〜6日間にわたり、毎日1個ずつ卵を産む傾向があり、産卵するとすぐ、受精のために交尾を行う。この間、最上位のオスはメスのそばで密会のタイミングを待っている。
 機が熟すと、カップルのどちらかが姿を消し、パートナーだけがわかる場所に行く。ベン・モカ氏によれば、オスは時折、自分の意思を伝えるため、小枝や卵の殻、食べ物のかけらをくわえて振り回すという。その後、カップルは茂みの陰や群れの仲間から見えない遠くに立ち去る。
 愛を交わす時間は本当に短い。カップルは1〜3回ほど交尾し、数分後、何事もなかったように戻ってくる。

「重要なのは刺激を隠すこと」

 アラビアヤブチメドリと同様、人間も共同繁殖を行う。マックス・プランク進化人類学研究所の一員でもあるベン・モカ氏は、アラビアヤブチメドリの交尾は人間に通じる部分があると述べる。(参考記事:「オランウータンと「少子化」と「孤独な子育て」」
 伝統的な文化ではほぼ例外なく、親密な時間は他者から隠される。人前でセックスすることがあるとしたら、通常は儀式的な意味を持つ場合のみだ。
 重要な点は、人間とおそらくアラビアヤブチメドリの両者とも、セックスしているという事実は隠しておらず、ただ行為そのものを隠しているだけだ、とベン・モカ氏は強調する。
「重要なのは刺激を隠すことで、それが存在するという事実を隠しているわけではありません」
 人間もアラビアヤブチメドリもその理由は同じで、パートナーとの独占的な関係を守りながら、グループ内の協力関係を維持するためだとベン・モカ氏は考えている。そのためには、他者の交尾を見るという視覚的な刺激がない方がはるかに簡単だとベン・モカ氏。
「協力関係を維持しながら、パートナーとの独占的な関係を守る助けになります」
 一方で、視覚刺激は社会的な対立を招き、グループの協力関係を壊す恐れがある。

ほかの鳥たちも?

 ベン・モカ氏によれば、フロリダカケスなど、最上位のオスとメスが交尾を隠す鳥はほかにも存在する可能性があるという。しかし、現在のところ、動物のこうした行動を記した論文はほかに発表されていない。(参考記事:「スズメはなぜ町の中でしか子育てしないのか?」
 米コーネル大学鳥類学研究所の客員上級研究者ウォルト・ケーニグ氏は、この興味深いテーマを論文にまとめる人がついに現れたと喜んでいる。
 ケーニグ氏によれば、ドングリキツツキも交尾を隠すという。ケーニグ氏は約40年にわたってこの鳥を研究してきたが、交尾する姿を見た記憶がない。ドングリキツツキも協力しながら子育てをする共同繁殖者であり、メスが本当の父親を隠すために交尾も隠しているのではないかと、ケーニグ氏は推測している。(参考記事:「キツツキはなぜ頭が痛くならないのか」
 ベン・モカ氏はこの説に反対の立場をとっている。メスが下位のオスと交尾するのは産卵後に限られ、父親がわからなくなる心配はないためだ。
 ただし、下位のオスとこっそり交尾し、視覚的な刺激を隠すことは、群れの協力関係の維持に役立つと、ベン・モカ氏は話している。最上位のオスに密会を知られなければ、下位のオスが群れを追い出されることはない。
 いずれにせよ、1つだけ確かなことがある。鳥たちの社会にも秘め事は存在する、ということだ。