同島がこうした遺伝的背景をもつようになったきっかけは、一説によると、1775年の猛烈な台風によって人口が一時的に激減したことにあるという。この台風を生き延びた島の統治者が、1色覚(色を識別しない視覚)となる希少な遺伝子を有しており、やがてその遺伝子が後の世代に受け継がれていくこととなった。(参考記事:「正常色覚」が本当に有利なのか)
ベルギー人写真家のサンヌ・デ・ヴィルデ氏は、ピンゲラップ島と色覚多様性の概念に発想を得て、遺伝をテーマとした一連の作品を製作している。2015年に島を訪れた際、彼女は色を判別しない人々の目に映る世界を表現するシリーズ写真を撮影した。(参考記事:世界で最も人口密度の高い島、写真26点)
一部の作品は白黒写真だ。しかし彼らの中には、赤や青などをかすかに知覚できる、1色覚とは異なるタイプの人もいた。そこで彼女は赤外線で撮影できる装備やレンズを用いて、特定の色を変化させたり、弱めたりして撮影を行った。さらにその後、色を判別しにくい人たちに、できあがった写真に水彩絵具で着色するよう依頼し、彼らには世界がどのように見えているのかを表現してもらった。
島から戻った後、彼女は立ち位置を逆転させる試みとして、オランダのアムステルダムにある自身のスタジオで、色覚多様性を疑似体験するインスタレーションを行った。来場者は、色を認識しにくくする効果を持つ照明に照らされた部屋の中で絵を描く。部屋を出た人々は、自らが描いた作品の鮮やかな色彩に驚かされるという仕掛けだ。
「私が目指すのは、人々に新しいものの見方、世界との関わり方を体験してもらうことです」とデ・ヴィルデ氏は言う。彼女はこの他、アルビノや小人症などを扱うプロジェクトも手掛けており、それらも同じく遺伝、地理、社会的なレッテルに関わるものだ。(参考記事:アルビノ~白い肌に生まれて)
しかし、視覚あるいは目は、世界と最初に交流する手段だ。色に関する今回のプロジェクトは、つまり、物事のとらえ方についてのプロジェクトであり、2人の人間が同じ存在ではあり得ないことを示すプロジェクトでもある。