昭恵さんの写真がとどめ/財務省のギアが変わった

昭恵さんの写真がとどめ/財務省のギアが変わった 森友学園、籠池前理事長語る

2019年2月10日05時00分 朝日新聞 後段文字起こし 文中見出しは紙面による

籠池泰典被告

 森友学園(大阪市)への国有地売却問題が発覚して2年。補助金詐欺事件の初公判を1カ月後に控える中、学園の前理事長、籠池泰典被告(66)が取材に応じた。今も妥当性が問われている土地取引に当時、どんな狙いで臨み、財務省の異例ずくめの対応をどう見ていたのか。当事者の視点で語った。▼2面参照

 学園は幼稚園を運営していた。保護者を通じて知り合ったのが安倍晋三首相の妻、昭恵氏だった。

 2006年に「愛国心、郷土愛」を盛り込んだ教育基本法改正を成し遂げた安倍首相を尊敬していた。昭恵さんと知り合ったのは11~12年ごろ。それはうれしかった。常に安倍首相と一緒にいるご夫人だから。

 13年9月、小学校の開校に向け、大阪府豊中市の国有地の取得を財務省近畿財務局に要望した。当面借りた後で購入するという特例の契約で、交渉は難航した。14年4月28日、昭恵氏と現地で一緒に撮った写真を財務局に示し、財務局は35日後、「協力させていただく」と伝えてきた。

 「いい土地ですから前に進めてください」と昭恵さんに言われたと伝えた。財務局には何度も通い、熱意を見せていた。写真はとどめ。財務省のギアがひとつ変わったんじゃないですか。ガッと。大臣経験者ら複数の政治家側にも働きかけを依頼した。僕も奈良県で役人をやっていたからわかる。政治家は戦艦大和の巨砲だ。

 15年5月に借地契約を結び、同年9月に昭恵氏が小学校の名誉校長に就く。籠池前理事長は、昭恵氏付の政府職員に財務省への問い合わせを依頼した。

 年約2700万円の借地料を安くしてくださいと一番お願いしたかった。職員からのファクスの返事は僕には「100%」だった。「引き続き見守ってまいりたい。何かございましたらご教示ください」と書いてあったから。財務省は動かざるを得ない。必ず良い方向に向かうと考えた。

 16年3月、学園は「国有地からごみが見つかった」と財務局に連絡。6月に1億3400万円で国有地を購入した。鑑定価格は9億5600万円だったが、ごみ撤去費8億1900万円などが値引きされた。

 建設業者が「ごみが出て工事ができない」と言ってきた。大変だ、どうしてくれんねん、と交渉した。分割払いも認められ、1年の支払いが約1100万円に。かなりの優遇で、感謝した。一連の取引の中で神風は1回ではなかった。ずっと吹き続けていた。

首相答弁 僕を切ろうとしていると

 17年2月9日、国有地売却問題が報道された。国会で「妻から学園の教育に対する熱意は素晴らしいと聞いている」と答弁していた安倍首相は2月下旬、籠池前理事長の評価を「非常にしつこい」と一変させた。

 「私や妻が関わっていれば、首相も国会議員も辞める」という安倍首相の答弁も「政治家だからそう言うかもしれない」と好意的にとらえていた。だが、「しつこい」という発言で、僕を切ろうとしていると感じた。僕の気持ちは確実に、がばあっと反転した。安倍首相は国民の目もくらましていると思った。

 3月の国会の証人喚問で、15年9月に「安倍晋三から」と昭恵氏が100万円を寄付してくれたと述べた。首相は強く否定した。

 その証言は今も変わらない。寄付をいただくほど親密で、開校に努力していただいたと言いたかった。昭恵さんも証人喚問に出てくるべきだ。本当のことは闘ってでも言わないといけない。名誉にかかわる。

 補助金詐欺事件の公判が3月6日に始まる。

 裁判について詳しいことは言えない。私を口止めするのが目的の国策捜査だったと思っている。

 一連の取引での自らの言動をどう考えているか。

 やり過ぎ? いや、当たり前でしょう。海外で油田を掘削させてほしいと言うとき、その国の要人に会ってお願いするのと同じ。

 国有地の大幅値引きは国民の不利益と考えないか。

 新しい小学校でいい人材を育てればマイナスよりプラスのほうが多い。絶対に。そもそも国がOKしないとその金額にならない。重要な義務教育課程の学校であったが故に、それだけの金額に下げてもよいと判断したのは国だ。

豊中市の土地には、完成間近の校舎が残っている

 建物は校舎として使ってほしい。あそこで学べば良い子ができるはずだから。

政府は「忖度」否定 ごみ撤去費も「適正」

 政府は森友学園との賃貸契約、売買契約ともに不動産鑑定を経て実施しており、問題ないとしている。

 「特例」の賃貸契約については「通達上3年の貸付期間を10年とするため、本省の特例処理の承認が必要だった」との説明で忖度(そんたく)を否定。政治家の「不当な」働きかけはなく、売却時に大幅値引きの根拠となったごみの撤去費の積算も、現地確認などをしていて「適正」だとしている。

 昭恵氏付の政府職員から財務省への問い合わせについては、学園への回答に「ご希望に沿うことはできないようだ」とあるとして菅義偉官房長官が「要望をきっぱり断っていてゼロ回答」と説明した。

 「100万円の寄付」は安倍首相が「私自身が行うことはあり得ない。妻や事務所など第三者を通じても行っていない」とし、昭恵氏もフェイスブックに否定のコメントを投稿した。

森友学園をめぐる補助金詐欺事件

 学園前理事長の籠池泰典被告と妻の諄子被告が2017年7月に大阪地検特捜部に逮捕され、起訴された。起訴内容は、設計業者らと共謀して16年2月、工事費を水増しした小学校建設の契約書を提出し、国から補助金計約5644万円▽運営する幼稚園などで11~16年度、勤務実態のない教員名を使い、大阪府・市から補助金計約1億2千万円――を詐取したというもの。18年5月に保釈された。