短期決戦に失敗し長期戦となり精神主義を唱える

アベノミクスがなぜ失敗に終わったのかを考える上で、原真人の近著「日本銀行『失敗の本質』」(小学館新書)は示唆に富んでいる。書名から分かるとおり、太平洋戦争における軍部の失敗とアベノミクスにおける黒田日銀の失敗とを並べて、奇襲・転機・強行・誤算・泥沼・終局という迷走の揚げ句に破滅に転がり込んでいく軌跡がピッタリと重なり合っていることを指摘していて、納得させられる。

 原に言わせれば、「短期決戦」は力のない者が強力な相手に挑む時に取る戦術で、だから緒戦のワンチャンスに賭け、イチかバチかの真珠湾奇襲攻撃に出た。しかし、それで戦争の帰趨を決められず、長期戦となって次第に形勢を悪化させ敗戦に至った。日銀も「2年で物価上昇2%達成」という期間限定の奇襲作戦に打って出たが、賭けに失敗し、ズルズルと6回も期限を延期してなお目標を達成できず、ついに6年目に至って目標を立てるのをやめて「長期戦化」を宣言した。目標設定そのものが間違っていたとは死んでも言いたくないので、無期延期するしかないわけだが、これでは破綻した時の国民生活へのダメージは余計に酷いことになるに決まっている。

 同じことを「持たざる国の精神主義」という言い方で論じているのは、片山杜秀著「平成精神史」(幻冬舎新書)である。領土・資源・人口・工業力・科学力などトータルな国力で見劣りする日本は、日露戦争までは「やる気」に頼って何とか勝ったが、第1次大戦以降、物量の多寡で勝敗が決するようになるともうダメで、「なるべく速戦即決で全面長期戦争にならないように、奇襲による短期決戦を考え」たがる。ところがそれも行き詰まると、精神力信仰が合理的判断を狂わせ、体当たり攻撃で長期戦にも勝てるという壮絶な思想にのめり込んでいく。片山はこれをアベノミクスではなく、原子力政策とその福島原発事故による破局と重ね合わせ、「日本は背伸びをして世界に冠たる国となり、無理して転んだときの怪我の度合いも世界に冠たるものだということの証明」と断じている。